障害児・者と家族、地域社会との関わりに関する一考察

―「障害児家庭教育学級」の活動に着目して―


◆序論(問題関心と本稿の方向性)

1章:家族支援が必要とされる理由
1節:日本的“ノーマライゼーション”の問題点
2節:能力主義的人間観と「世間」の常識
3節:障害児・者の親が抱える問題
4節:家族支援の重要性

2章:「障害児家庭教育学級(交流学習会)」の歩み
1節:学級開設までの経緯
2節:これまでの活動状況
3節:参加者にとっての意義
4節:課題と今後の展望

3章:これからの家族支援
1節:親自身による地域活動の意義と必要性
2節:家族主義、施設収容主義の見直し
3節:当事者の声を反映した地域生活基盤づくりに向けて
4節:目標

◆結び(まとめと今後の課題)


●研究目的

障害児・者の親自身による地域活動の家族支援における意義を考察する

→専門家(医師,臨床心理士,保健師,保育士,教員,福祉施設職員)に果たせない機能とは

兵庫県加古川市で実施されている「障害児家庭教育学級」を例にして

 

日本の障害者福祉の根本的な問題を指摘し、今後の家族支援のあり方を考察する

→「家族主義」「施設収容主義」の見直し

加古川市内の作業所、通所施設職員(コーディネーター)への聴き取り調査を基に考え

 た家族支援の方向性

 

●要旨

日本におけるノーマライゼーションは、その根源とでも言うべき「優生思想」「能力主義的人間観」への反省を軽視してきた。ただ、これは日本だけの問題ではない。北欧の福祉先進諸国においても、1970年代まで国家政策として知的障害者等を対象に強制不妊手術が行われてきた事実を見ると、ノーマライゼーションの思想はいまだ単なる理念として広がっているに過ぎないと言える。それ故、バンク‐ミケルセンやニィリエが提示するような「ノーマルな社会」づくりは進まず、障害児・者の多くは現在も「ノーマルな生活」から程遠い状況に置かれている。さらに日本人の場合は、個人を縛りつける「世間」を常に意識し、そこから排除されることを怖れながら生きている。それ故、「世間の常識」が日本人にとっての大きな判断基準になる。その常識の大部分は健常者がつくり出したものである。

 障害者にとって、このような「能力主義的人間観」や「世間の常識」に縛られた社会では、自分の存在を肯定することが困難になり、生きづらさを感じることになる。そして、障害者が生きにくい社会は、その家族にとっても生きにくい社会だといえる。ここに家族支援の必要性が生じてくる

 家族支援にも様々なものがあるが、本稿では家族の精神的苦痛を取り除くための支援(ケア)のあり方について考察している。これは、親が「慢性的悲哀」を乗り越え「障害受容」していく過程で、親自身の主体性に委ねながら、補助的な支援(ケア)をしていくことである。また、とりわけ乳幼児期の家族支援は子どもの発達を促すという意味でも重要な意味を持つと考えられる。こうした支援の中心的役割を担うのが医療や教育の専門家である。

しかしながら、親は専門家の支援だけで、わが子の障害を受容し、前向きに子育てに取り組めるわけではない。親には同じ境遇にある親どうしの連帯感が必要だと考えられる。本稿では、それを生み出すものとして親自身による地域活動に着目し、具体的事例として兵庫県加古川市で実施されている「障害児家庭教育学級」(詳細は裏面)をとりあげた。関係者への聴き取り調査等から、この活動の意義は連帯感の創出や情報提供だけではなく、障害児・者の社会参加を促進し、健常者の意識を変えるという点にも見出せるということがわかった。したがって、今後の家族支援も、専門家だけでなく、家族自身が自分たちを支援する体制を築き、発展させていくことで充実したものになると考えられる。

 今後の家族支援を考えた場合、「家族主義」と「施設収容主義」という日本の障害者福祉の根本的問題を克服することが最重要課題となる。しかし、今すぐ「脱施設」して地域生活に移行させようとする(「脱施設論」)のは危険である。まずその前提として、当事者が安心して地域生活に移行できるようにするための、当事者の意見が反映された地域生活基盤の整備が必要となる。今当事者が最も必要としていることは、「障害児・者個々の現状を理解して欲しい」という基本的なことなのである。

 

●今後の課題

・「障害児家庭教育学級」の変遷過程の調査

→本稿で調査したのは、事業化前・開設当初・現在の活動のみ

・参加者の意識調査

→参加前後で意識や行動にどのような変化があったか

・各公民館の運営状況の調査・比較

→本稿では近隣の公民館の活動を調査したのみ。公民館ごとに独自性があると言及しておきながら、その具体的な内容に関しての調査が不足・未熟

・社会福祉協議会やNPO、ボランティア等の家族支援における意義に関する考察

→地域生活基盤の整備において人的基盤は必要不可欠

 

●主要参考文献・資料

〔文献〕

・阿部謹也(2003):『日本社会で生きるということ』,朝日文庫,230p

・門田光司,柳沢亨,平澤紀子(2003):『知的障害・自閉症の方へのケアマネジメント入門 地域生活を支援するために』,中央法規,183p

・鈴木勉,塩見洋介(2003):『ノーマライゼーションと日本の「脱施設」』,かもがわ出版,77p

・徳田茂,伊藤智佳子(2003):『障害をもつ人の家族の心理』,一橋出版,254p

・中田洋二郎(2002):『子どもの障害をどう受容するか』,大月書店,102p

・牧里毎治(2000):『地域福祉論 住民自治型地域福祉の確立をめざして,川島書店,265p

E.H.エリクソン,J.M.エリクソン,村瀬孝雄・近藤邦夫共訳(2001):『ライフサイクル、その完結』,みすず書房,202p.

〔資料〕

加古川市障害児家庭教育を考えるつどい編集委員1983):『第2加古川市障害児家庭教育を考えるつどい報告書 昭和57年度市内各公民館障害児家庭教育学級開催状況』,加古川市障害児家庭教育を考えるつどい実行委員会,28p

加古川はぐるまの家施設長 高井敏子氏からの提供)


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