棚田保全と都市住民の認識_奈良県明日香村の棚田オーナー制の事例_

  服部 真弓       

指導教官  澤 宗則教官

<章構成>

序章

 1 はじめに

 2 研究目的

 3 先行研究

 4 研究方法

第1章 日本全国の棚田の現状とその多面的機能 

 1 棚田の分布と現状

 2 棚田の多面的機能

第2章 事例地域の概要

 1 奈良県明日香村の概要

 2 稲渕地区の概要

第3章 農村側の論理_棚田をどう捉えているか_

 1 棚田ルネッサンスの概要

 2 明日香村民にとっての棚田の意義

第4章 都市側の論理_棚田オーナーであることの意義_

 1 棚田オーナーでありことの意義

 2 棚田保全に対する認識

 3 明日香村を選んだ理由

第5章 棚田保全に対する展望

 1 棚田オーナー制の農村側への影響

 2 農業の担い手

 3 棚田オーナー制に対する展望

 4 農業・農村に対する展望

終章

 1 結論

 2 おわりに_今後の課題 


<論旨>

 棚田は、全国各地の斜面に広く存在する。しかし、その経済効率の低さゆえ、耕作放棄・荒廃が進んだ。そのような状況の中で、棚田が有する多面的機能を見直す気運が高まってきた。本研究においては、棚田の多面的機能を、_米生産機能、_伝統・文化伝承機能、_景観形成機能、_環境・生態系保全機能、_国土保全機能、_教育・保健休養機能、_農業多角化の資源としての機能の7点であると捉えた。

 本研究においては、奈良県明日香村の棚田オーナー制を事例として取り上げた。まず、農村住民が棚田をどう捉えているか、という農村側の論理を明らかにした。かつて農村住民は、棚田を生産の場としてのみ捉え、その経済性を重視した。その結果、棚田の耕作放棄・荒廃が進行するに及び、経済性重視の論理の転換がなされた。すなわち、行政側にとっては村おこし、景観保全の必要性から、地元農家側にとっては後継者不足対策として、棚田オーナー制が導入された。そして、農地の維持と農村都市間交流が目指されたのである。

 次に、都市側の論理を明らかにした。都市住民である棚田オーナーは、オーナー活動において、第一に農作業の喜び、第二に棚田のアメニティ機能(伝統・文化伝承機能、景観形成機能、環境・生態系保全機能、教育・保健休養機能)、第三に心の故郷という価値を評価している。そうしたことを反映して、棚田オーナーの棚田保全に対する認識は強い。また、棚田オーナーとなる際、居住地からの近さが大きく影響している。都市近郊地域であり、なおかつ、歴史的風土、豊かな自然を有するという明日香村の特徴が有利に働いている。

 こうして、かつては農村住民が生産性という意義しか見出せなかった棚田に対して、都市住民はアメニティ機能という価値を見出すこととなった。オーナーとの交流を育んでいるインストラクターは、このような価値観を共有しており、それが、棚田という地域農業資源を誇り守っていく動機付けとなっている。

都市住民のニーズを満たしつつ、地元住民に対しても地域資源の見直しを促進させるという点では、オーナー制によって棚田保全を図ることは得策であるといえる。しかし、将来性を見据えて、今後解決すべき課題が存在する。それらを、以下にまとめる。_地元農家の後継者世代も、棚田保全の動機付けとなるように、棚田オーナーが見出している棚田の意義を認識すべきである。そのためには、交流を促進する必要がある。その上で、農業の多角化を図ることが重要である。_棚田オーナーの農業に対する意欲を満たし、農業の担い手としていく方法を模索すべきである。例えば、オーナー田の区画面積の拡大、棚田オーナーの宿泊・移住体制の確立が挙げられる。_農作業や豊かな自然を体験させて、子どもの教育に資するべく、棚田オーナーの年齢構成を考慮する。_人間関係を長期的に育むために、交流のあり方を再考し、多くの人が楽しめるものにする。_景観を提供するべく、観光客を棚田に誘導する。

さらに、農業・農村の再生において、地域資源を活用して農業多角化を図る際、農村側もその価値を認識しておく必要がある。


<主要参考文献>

合田素行(1998):棚田による農村アメニティ.農総研季報,37,農業総合研究所,43-59

千賀裕太郎(1997):棚田の多面的機能とその保全.地理,42-950 55

寺内光宏(1999):棚田におけるオーナー制度導入による国土・景観保全機能の維持.農村研究,88,東京農業大学農業経済学会,65-80

中島峰広(1999):「日本の棚田 保全への取組み」,古今書院,252p.


発達科学部・社会環境論・卒業論文題目

神戸大学・発達科学部・澤ゼミの内容