歴史的景観保全と『まちづくり協議会』
―兵庫県八鹿町の地域活性化と主体形成―

                        澤ゼミ  阿江麻希子
<章構成>
はじめに
第一章  事例地域の概要                  
第二章  「まちづくり協議会」とは  
第一節  背景―住民参加のまちづくりの流れ
第二節  「まちづくり協議会」とは
第三節  まちづくり条例の制定
第四節  まちづくり協議会と既存の自治会
第三章  兵庫県八鹿町「新町まちづくり協議会」  
第一節  新町地区の概要
第二節  設立経緯
第三節  活動内容
第四節  まちづくり協議会の意義
  (1)「住民主体のまちづくり」の実現
  (2)歴史的景観保全の視点から
  (3)農村地域社会、村落地域社会が抱える問題に対するアプローチ
第四章  「まちづくり協議会」が抱える問題    
第一節 問題点
第二節 今後の課題と展望
おわりに

<卒論要旨>
 現代の日本の農山村地域は、地域基盤の整備がかなり進んで、以前ほど生活していく上で不自由を感じることは少なくなった。しかしながら、人口の減少や産業の衰退、高齢化問題などを抱え、依然として「停滞感」が漂っている。そのような中で、「歴史的景観」という地域独自の資源を活用して、地域の活性化を図っていこうという取り組みが各地で目立ってきている。一方で、これまでの地域づくり=まちづくりは、行政主導による画一的なものであり、その結果さまざまな弊害が出てきたため、昨今「住民主体のまちづくり」ということがしきりに言われるようになった。その担い手の一つが、「まちづくり協議会」である。「まちづくり協議会」とは、住民の積極的参加によるまちづくり組織であり、「まちで暮らす人々が、そのまちをより安全で魅力あるものとするために、開かれた論議を行い、まちづくりの提案や実践を行う集まり」である。
本研究では、兵庫県八鹿町の新町地区に、2001年春に設立された「新町まちづくり協議会」を事例として取り上げた。まちづくり協議会では、まち歩き(タウンウォッチング)やワークショップをとおして、住民自身が自分のまちの将来について考え、議論をし、自分のまちをどういうまちにしたいかということを決める。そして、その実現に向けて、まずは「自分たちでできることから始める」。例えば、花づくりをしたり、自分のまちのオリジナルマップを作ったり、「まちづくり博物館」などの催しを行ったりして、「少しずつでも自分たちの手でまちが変わっていく」と住民自身が認識することで、それまでの行政任せのまちづくりから「住民主体」のまちづくりへと変わっていくものと考えられる。
また、同地区は、商家の繁栄を誇示する「うだつ」をかかげた家や、大正期からの歴史的な建物が数多く残っている地域でもあり、歴史的な町並みと豊かな自然に囲まれたまちである。住民は、まちづくり協議会の活動を通して、見慣れて当たり前だったその価値を再認識し、歴史的町並みを守っていく方法を模索している。「景観」や「町並み」がもつ地域の独自性、継続性、主体の拡大性といった特性は、地域の誇りや愛着、アイデンティティと結びつきやすいという利点があるが、反面、住民間の合意形成が非常に重要となってくる。また、「町並み」=「公的な私的部分」を含むため、行政には踏み込めない領域でもある。だからこそ、住民主体のまちづくり協議会には、住民間の合意形成を図り、住民間で独自のルールづくりなどができるという大きな意義がある。また、景観というのは、美しい自然や歴史的な建物という「物的」に満たされているだけでなく、「人」という要素も含めて「景観」や「町並み」といえる。そこに人間が生き生きと暮らしている姿があって初めて、歴史的景観を活かしたまちづくりが成功すると考えられる。
さらに、まちづくり協議会は、農村地域社会、村落地域社会が抱える問題を解決する糸口にもなりうるという意義がある。具体的には、?まち協の活動を通して、自分たちのまちに新たな魅力を生み出し、地域の活性化に寄与する。?都市部への若者の流出、通勤距離・通学距離の拡大、共働き夫婦の増加などによって、だんだんと地域との関わりが薄れ、失われていく地域コミュニティを、まち協の新たな活動を通して復活させる。?失われていく伝統を保存する。?既存の自治会とは異なる、先進的で創造的な性格をもった「まち協」という新たな組織をつくることによって、伝統的ムラ社会が抱えてきたマイナス面(男性中心社会、年配者の発言権が大きい、保守的思考)を払拭する可能性もある。
しかしながら、新町まちづくり協議会は、参加者がなかなか増えず、活動が展開しづらいという状況に陥っている。そこで、本研究で、新町地区住民全員にアンケート調査を行った結果、前述した伝統的ムラ社会が抱えてきたマイナス面がまだまだ払拭されておらず、特に若い世代の参加に、それらが障害となっていることがわかった。しかしながら、まちづくりには、小さな子供を持つ母親の視点などは特に重要であるので、若い世代の参加者をどのように増やしていくかなどが今後の課題となると考えられる。


<主要参考文献>
杉万俊夫編著(2000):「フィールドワーク人間科学 よみがえるコミュニティ」、ミネルヴァ書房、236p.
田村明(1999):「まちづくりの実践」、岩波書店、209p.
西村幸夫(1997):「町並みまちづくり物語」、古今書院、248p.
保母武彦(1996):「内発的発展論と日本の農山村」、岩波書店、271p.
守友裕一(1991):「内発的発展の道−まちづくり、むらづくりの論理と展望−」、農山漁村文化協会、268p.
大戸徹・鳥山千尋・吉川仁(1999):「まちづくり協議会読本」、学芸出版社、190p.
佐谷和江・須永和久・日置雅晴・山口邦雄(2000):「市民のためのまちづくりガイド」、学芸出版社、223p.
長谷川昭彦・藤沢和・竹本田持・荒樋豊(1996):「過疎地域の景観と集団」、日本経済評論社、363p.

神戸大学・発達科学部・澤ゼミの内容