高齢者の主体的移動における移動制約 ―身体的感覚を通して―
坂原 秀俊


(章節構成)
第沛ヘ はじめに
 氈|1 研究目的
 氈|2 高齢者の身体的機能・感覚の特徴
(1) 高齢者の身体的機能
(2) 高齢者の身体的感覚
    (a)視覚 (b)色覚 (c)聴覚 (d)体位平衡保持能力
 氈|3 空間移動に関する先行研究と問題点
 氈|4 研究方法
第章 宝塚市の概要
 −1 宝塚市の人口と高齢化
 −2 宝塚市の地理的特徴
 −3 道路網
 −4 宝塚市の地域施設
第。章 身体的機能・感覚の老化に伴う主体的移動の移動制約
 。−1 道路環境における移動制約の違い
 。−2 身体的機能・感覚の老化の種類による外出範囲の違い
 。−3 雨天の主体的移動における移動制約
 。−4 夜の主体的移動における移動制約
 。−5 通院行動における移動制約
第「章 高齢者が主体的移動の際に抱えるイメージ
 「−1 高齢者の主体的移動の際に抱えるイメージ
 「−2 今後の課題

<論文要旨>
 近年、日本では、高齢者や身体障害者が健常者と同等に、自由に動き回れるバリアフリーのまちづくりが盛んに行われ始めた。しかし、バリアフリーのまちづくりを行う際、物理的環境の整備だけでは不十分であると考え、そこで、本稿では、高齢者の身体的機能・感覚に注目し、それが外出行動―主体的移動―においてどう影響するのか、移動範囲をどう歪めるのか、またそれと同時に、高齢者が物理的障害をどのように乗り越え、移動範囲を広げるかについて考察することが目的である。物理的要因のみならず、社会的・心理的要因についても考察を行う。
 第沛ヘでは、高齢者の身体的機能・感覚の特徴について述べ、その後に、空間移動における先行研究(認知地図)の問題点について述べた。それは、被験者が頭の中に持っている認知地図を、何かしら条件を提示したり、問いかけをしたりしてそれを「地図学的地図」と比較できる形に具現化する。そしてそれを客観的な現実世界と比較して、地図の性質などを分析する方法が採られている。しかしこの過程で得られた地図は、「地図学的地図」の性質を越えられず、また、現実世界と認知地図の関係は明らかにならない。それに、地理学が扱う認知地図の多くは、被験者の移動体験や地図に表記されなかった物を軽視しており、被験者と環境との対話がなされないままである。また、地図に描かれた物や分析の焦点の多くは視覚的なものに偏っていて、他の感覚による情報の考慮・分析があまり行われていないというものである。

第章では、事例地域である宝塚市の高齢化の状況や地理的特徴、福祉の取り組みについて説明した。

第。章では、高齢者の主体的移動における移動制約について、「道路環境における移動制約の違い」、「身体的機能・感覚の老化の種類による外出範囲の違い」、「雨天の主体的移動における移動制約」、「夜の主体的移動における移動制約」、「通院行動における移動制約」という5つの観点から考察し、それらに共通する10の要素を導き出し、『物理的要因』、『心理的要因』、『社会的要因』に分類した。『物理的要因』として@「物理的障害」A「視覚的恐怖」B「体位平衡保持の阻害」C「介助者(の肉体的能力の限界、不在など)」、『心理的要因』としてD車両との「事故への不安・恐怖」E「怪我への不安・恐怖」F「健康・病気との関連」G「イメージ」H「温度感覚(冷たさ)」、『社会的要因』としてC「介助者(の肉体的・精神的負担、不在など)」I「経済的理由」を導き出した。これら10個の要素が高齢者の抱える様々な状況に応じて、それぞれ移動制約となる。

第「章では、第。章や高齢者の意見をもとに、移動促進について7つの要素を導き出し、『物理的促進』、『心理的促進』、『社会的促進』に分類した。『物理的促進』として@「物理的環境の整備」A「休憩所の整備」B「トイレの整備」、『心理的促進』としてC「温度感覚(温かさ)」D「何が起こるか予測できること」、『社会的促進』としてE「非高齢者のサポート」F「高齢者自身のネットワークの広さと強さ」を導き出した。その後、今後のバリアフリーのあり方について提言をした。それは、@バリアを生まない物を作ること、Aバリアのない物的環境が普通なのであるという意識改革を行うこと、B非高齢者が高齢者の身体的機能・感覚を考慮しサポートすること、である。

(主要参考文献)
岡本耕平(1998):「行動地理学の歴史と未来」、人文地理第50巻第1号.
高齢社会とまちづくり研究会編著(1994):「都市と高齢者 {高齢社会とまちづくり}」大成出版社.
中村豊・岡本耕平(1993):「メンタルマップ入門」古今書院.
長嶋紀一・佐藤清公・市原浩・長田由紀子・加藤伸司・河合千恵子・須藤弘子(1998):「三訂 老人心理学」 建帛社.
若林芳樹(1999):「認知地図の空間分析」地人書房.

神戸大学・発達科学部・澤ゼミの内容

発達科学部・社会環境論・卒業論文題目