原発と地域振興

ー福井県美浜町の事例ー

I はじめに

原子力発電所は、かつては、地域活性化、雇用増大、経済効果波及などといった利点があると思われて、歓迎された。しかし、現在、その風潮は変化してきている。安全性への不安、情報公開の不足という観点から、地元で、原発反対の気運が高まってきているのだ。それに対して、誘致派は、安全面で問題はないとし、また、依然として、経済効果を訴えている。

ここでは、原発の経済性に着目して、述べていく。果たして、原発は地域振興と結び付いているのだろうか。この点を検証し、原発の是非を問いたい。

II 事例地域の概要

事例地域として、福井県三方郡美浜町を取り上げる。ここには、関西電力株式会社の美浜発電所があり、現在、3基の原子炉が運転されている。

美浜町は、1954年、4か村が合併して誕生した。北は、若狭湾に面するリアス式海岸が続き、南は山地となっている。かつて、漁業、農業が中心であった。

そこに、関西電力は発電所を設けた。1970年に1号機(出力34万kW)、72年に2号機(同50万kW)、76年に3号機(同82.6万kW)が、それぞれ営業運転を開始した。この地が選ばれたのは、原発の立地条件に適合していたためである。その条件とは、まず第一に、地震を考慮しての硬い岩盤の地質、第二に、広い土地、第三に、冷却水を利用するため、海岸線沿いであることである。広い土地を必要とすることから、周りに人工施設があまりなく、人口が希薄な地域が選定されることになる。これに対しては、事故が起こった際の被害を、小規模にとどめるためではないか、という批判的な見方もある。

III 財政

原発が貢献すると思われる地域振興としては、財政、雇用創出、経済効果波及などが考えられる。以下、それぞれについて、検討していく。

まず、財政について述べる。美浜町の財政は、1960年度には1億円あまりであったが、年々増大し、89年度には70億円を超える規模となった。特に、70年代の伸びは著しく、70年度には57千万円であったが、75年度には約4倍の22億円にまで拡大した(図1<略>、表1<略>)。

このように、財政規模が拡大した要因としては、発電所の影響が大きい。つまり、発電所設置に伴い、固定資産税の収入が大幅に増加したことと、74年に制定された電源三法交付金によるのである。他に、核燃料税交付金等の制度もある(表12)。

1)電源三法交付金制度とは

原発をはじめとする発電施設は、地元との調整が難航し、立地の決定に至るまでの期間は、ますます長期化の傾向を強めている。このような状況への対策の一つに、電源三法交付金制度がある。

国は、1974年、「電源開発促進税法(注1)」、「電源開発促進対策特別会計法(注2)」、「発電用施設周辺地域整備法(注3)」の3つを制定した。これが、いわゆる「電源三法」である。その目的は、安定的かつ低コストの電気を確保できるよう、電源立地を計画的に進めることである。これらの法律による交付金は、社会基盤の整備や地域住民の福祉の向上のための費用として、関係自治体に交付されるものである。

2) 美浜町における、電源三法交付金事業の実績

美浜発電所1号機、2号機の営業運転開始時は、法律制定前であるため、対象外となった。これらに関しては、関西電力の寄付や、古い発電所を対象とした交付金が支給されている。

3号機に関して支払われた交付金によって、町道や、学校の体育館、公民館、町民プールなどといった公共施設が建設されている。交付金の、事業費における割合は、平均87.12%で、高い値となっている。美浜町では、この他に、日本原子力発電(株)敦賀2号機、動力炉・核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅ、同事業団新型転換炉ふげん発電所、北陸電力(株)敦賀石炭火力発電所の、周辺分としての交付金も受けており、いずれも、町道、小学校、保育所、上水道等、公共施設を建設するために使用されている(表2)。

3) 電源三法交付金は、真に地域振興となっているか

以上のことから、原発が存在していることによって、美浜町の財政規模が拡大している、ということは、確かに言える。しかし、このことは、地域振興だと言えるのだろうか。

これに対しては、否定的に考えるべきだと思われる。なぜなら、以下のような3つの問題点があるからだ。

その問題点とは、まず第一に、依存性である。つまり、地域が、電源三法交付金に依存する、という構造に陥っているのだ。危険を伴うかも知れない原発を拒否して、住民の安全を確保することよりも、原発を受け入れることの見返りとして、財政収入が増加することの方を重視している。上述したように、公共施設建設事業費における、電源三法交付金の割合は、かなり高い。このように、交付金に依存した状態で、美浜町では立派な公共施設が次々建設された。もし、交付金がなかったならば、これらの施設は整備されなかったのであろうか。あるいは、財政支出の他の分野が削減されたのであろうか。公共施設は、自治体が、住民の基本的なニーズに対応することを目的として整備するものである。自治体が、その本質的な活動の財源を、原発の見返りとしての交付金に依存するのは、好ましいこととは言えない。自治体としての自律性を欠いている。

第二の問題点として、時限性が挙げられる。このような財政的補助は、恒久的なものではない。電源三法交付金は期限付きで、美浜発電所の立地分は、営業運転を開始した1976年に終わっている。最近の「もんじゅ」立地による、周辺市町村への交付金も、93年度で終了した。また、固定資産税についても、77年度の14億円を最高に、年々減少し、93年度には8億5千万円に至っている。もちろん、交付金が永久に続くのであれば、それに頼っていてもよいと言っているのではない。原発によって、財政規模が拡大するという状態は、原発による放射線漏れの可能性を伴う上に、その利点は、いずれなくなるのであるから、依存体質から脱却する方策を見い出すべきである。

最後に、第三点目として、目的限定性がある。交付金の利用目的が、道路や学校等公共施設の建設に限られている、ということに、住民は不満を抱いているのだ。また、事業計画は自治体が立て、住民の意見は取り入れられず、柔軟性がないことも、批判されている。このことからも、財政的補助が有効でない、ということが言える。

これまで述べてきたように、電源三法交付金には、主に3つの問題点がある。まず第一に依存性、つまり、地域が交付金に依存して自律性を失するということ、第二に時限性、すねわち、それは恒久的ではないということ、第三に目的限定性、つまり、その利用目的に柔軟性がないということ、である。原発による財政補助には、以上のような様々な弊害があるのであるから、地域振興に役立っている、とは決して言えない。

IV 原発の直接雇用

原発による雇用の状況を見てみよう。

美浜発電所の従業員434名のうち、福井県内出身者は237名で、54.6%を占める。特に、福井県嶺南地方出身者が多く、全体の41.5%となっている。また、警備会社などの協力会社の従業員2295名のうち、1136名(49.5%)が、県内出身者である。嶺南地方出身者は、全体の48.0%である。

専門的な技術を要する職に従事する人の中に、地元出身者はあまりいないが、事務職の女性は、全員が地元出身者であるという。

このように、原発は直接雇用を創出する。このことは、かえって弊害となりうる。それについては、後述する。

V 経済効果

  1. 建設業

    原発立地に際して、地元建設業には、どのような影響があったのだろうか。

    当初は、大手ゼネコンが参入し、地元の土建業者はその下請けをする、とい

    う状態であった。しかし、初期には、人手が足らず、電力会社が援助して、小規模な会社を創設した。そのような会社には、建設業の他に、鉄鋼業、ペンキ塗装業、原発の下請けを行う関連企業などもある。

  2. 農林漁業と地場産業

    前述したように、美浜町では、かつて、農林漁業がさかんに行われていた。

    そのような農林漁業や、地場産業に対する、原発の影響は、どのようなものであろうか。

    原発は、それらの産業に、労働力の面で大きな打撃を与えた。つまり、そのような産業から、原発及び関連企業へと、多数の後継者が移動したのである。確かに、原発及び関連企業の方が、高収入が得られるため、経済面で魅力的ではあろう。しかし、その結果、農林漁業や地場産業は、後継者不足と、それにともなう就業者の高齢化により、衰退の一途をたどることになった。

    また、美しい海岸を誇る美浜町では、海水浴客を対象にした観光産業もさかんであった。しかし、原発立地後の事故の影響で、衰退してきており、民宿も減ってきている。

    上で指摘したように、原発は、他の産業に悪影響を及ぼしている面もある。しかし、漁業に対しては、効果もあるようだ。以下で、原発の、漁業への影響を見てみよう。

    発電所から、温排水が海に放出されるが、漁業への影響はどうであろうか。海水が、タービンを回した蒸気を冷却するために使われる。その間に、海水の温度は、取水した時と比べて、約7℃上昇する。その海水は、海に放出されるのであるが、それを温排水と呼ぶ。しかし、温排水については、温度を下げる工夫がされているため、沖合いではほぼ常温に戻っており、魚類への悪影響はないという。それどころか、温排水を利用して、魚介類の増養殖の研究を行っている。

    とは言え、原発による生態系への影響は全くないわけではなく、美浜発電所のある丹生では、なまこが減少するという変化が起こった。そのかわりに、美浜発電所では、魚の養殖を行っている。もともと、丹生湾は海水の流れがあまりなく、魚の養殖には適していなかった。ところが、発電所ができて、蒸気の冷却水を取水し始めたことにより、湾内に流れができ、タイやハマチの養殖が可能になった。冬には、フグの養殖も行っている。

  3. 原発による経済効果及び社会的影響

原発は、確かに、魚の養殖を促進しているという点では、漁業に対して貢献している。

しかし、原発は農林漁業や地場産業に大打撃を与えている。後継者が急激に原発及びその関連業に就業し、その結果、地元産業の就業者の減少、高齢化が進んでいるのである。このようにして、美浜町の様々な地元産業が、衰退していっている。そして、地域経済が原発産業に依存することになるが、それは好ましくない。なぜなら、原発産業に依存することにより、自律性がなくなり、原発以外の産業が育たないからだ。そのような状況下では、原発産業が崩壊した場合、地域経済は、一体どうなるのだろうか。

よって、原発による経済効果は、一部では限定的に認められるものの、利益よりも損失の方がはるかに大きいと言える。

また、原発の社会的影響も懸念される。多くの地域住民が、原発関連企業に雇用されているという状態は、社会的側面から見ても、望ましいものではない。

原発が完璧に安全なわけではないということを認識していたとしても、それが、自分あるいは身近な人々の生計を立てる手段であるとすると、反対しにくいからだ。また、雇用者が、自分の生活を守るために、反対派に圧力をかけるという場合もある。

VI むすび

原発誘致派は、原発が地域振興に役立っているという経済効果を強調する。しかし、実際は、上で見てきたように、原発は、必ずしも地域振興と結び付いているとは言えない。

ここでは、地域振興の内容を、財政、雇用創出、経済効果波及であると想定して、述べてきた。確かに、直接雇用の創出、魚の養殖促進という点では、地域に貢献している。しかし、原発は、財政面において、また、他産業に対して、重大な悪影響を及ぼしている。つまり、財政面では、依存性、時限性、目的限定性という問題がある。なかでも、地域財政を原発に依存するという体質に陥っていることは、大きな弊害である。早急に、その状態から脱却しなければならない。また、地元の産業に対しては、後継者不足という問題をもたらし、衰退を進めた。

ゆえに、誘致派が提唱してきた原発の利点は、実際には、全く利点とは言い切れないのである。したがって、放射能が漏れ出る危険性のある原発を、あえて誘致する理由はなくなるのである。

 

 

 注釈

  1. 原子力や火力、水力をはじめとする発電施設などの設置を促進することと、石油に代わる燃料による発電のための利用促進を目的として、電力会社に対し、販売電気1000kw時につき445円を徴収している。

(2)電源開発促進税による国の収入の経理を明確にするため、特別会計を設けている。この法律により、電源開発促進税による国の収入は、発電用施設周辺地域の整備や安全対策をはじめ、発電用施設設置の円滑化のために必要な交付金や補助金などを交付している。

  1. 発電用施設設置の円滑化と、地域住民の福祉の向上を図るために、一定の規模・要件に該当する原子力・火力・水力発電施設を対象に、公共用施設の整備費用として交付金が交付されている。

 

参考文献

「美浜の地域振興(原子力編)」 美浜町 1995年

「今日も美浜から皆さまの町へ_美浜発電所」 関西電力美浜発電所

「美浜発電所の概要」 関西電力美浜発電所

聞き取り

松下照幸様(美浜町会議員)

美浜原子力PRセンター

福井・若狭合宿巡検・報告書(1999年)目次